【4人用声劇台本】池の大蛇と怨念の姫

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上演時間約8分ほど


【あらすじ】
 青年が訪れた池には大蛇が住み着いていた。大蛇は昔、池で命を落とした姫の怨念によって力を得て、村の人々を喰らっていた。
【登場人物】
 青年・・・・・・全国を渡り歩き、妖怪などが引き起こす問題を解決している。
 藤姫・・・・・・池のほとりに住んでいた美しい姫。
 大蛇(おろち)・・・・・・池の主を名乗る大きな蛇。村の人々を喰らっている。
 村人・・・・・・青年に大蛇退治をお願いした。





青年 『昔、この池のほとりには2人の地主の館が立っていた。一方の方には若介という1人息子が、もう一方には藤姫という、それはそれは美しい姫がいたそうだ。2人は両家が決めた許嫁だったという。2人は幼い頃から遊んでいたこともあり、お互い惹かれ合い、婚礼の日を楽しみにしていたという。そんな2人を妬む者がいた。藤姫の継母である。藤姫の実の母は彼女を産んですぐに亡くなってしまい、父親はしばらくして継母と再婚した。継母は家にやってきたときから藤姫の美しさを妬み、冷たく当たっていて、藤姫と若介の婚礼もよく思っていなかった。そして藤姫と若介の婚礼が近づいてきたある日、事件は起きた。』
藤姫 『私はあの日、若介様にお会いするため、お家を訪ねました。しかし家来の方々も今日は姿をお見かけしていないというではありませんか。私は家の周辺を、探しました。若介様を見つけることができずに家へ帰ると、いつにもまして神妙な面持ちでお母様が立っておりました。「藤姫。あなたに残念なことを伝えなければいけません。実は今朝方、若介の遺体を池で見たという者がいるのです」』
藤姫 うそ・・・・・・どうして・・・・・・
藤姫 『急な知らせに私は絶望しました。どうして若介様が……おぼつかない足取りでなんとか自室へ戻ると1人、まるで赤子が泣くように泣き喚きました。悲しみにくれ、もう涙など枯れ果てた頃、私はせめて若介様の亡骸だけでもと思い、止める家臣の手も振りほどき、1人池へと向かいました。その時に私は気がつくべきでした。池のほとりに、普段は置かれていない舟が一隻置いてあることに。私は疑うこともせずにその舟に乗り、池に漕ぎ出しました。池の真ん中まできたくらいでしょうか。私はようやく、舟の底に穴が空いていることに気がつきました。穴からどんどんどんどん池の水が流れ込んできます。私の身体は船と共に池の底に引き込まれていきます。ふと池のほとりに目をやると、そこにはお母様が立っていました。遠くからではありましたが、不適な笑みを浮かべているように私には見えました。そこで私は、やっと全てを悟ったのです・・・・・・あの女に騙されたのだと。私は彼女への恨みを抱えながら冷たい池の底へと沈んでいきました。』
大蛇 おやおや、これはまた、随分と美しい姫様が降ってきたじゃないか。
藤姫 あなたは・・・・・・誰?
大蛇 俺か?俺は・・・・・・あれだ。この池の主だ。
藤姫 主様?
大蛇 美しい姫よ。お前の質問に答えてやったのだからこちらも聞かせてもらうぞ。お前さんほどこの暗ーい池の底が似合わない人を俺は見たことがない。なぜこんなところに?
藤姫 お母様よ・・・・・・いや、あんな女、私のお母様なんかじゃない。あの女が・・・・・・私を騙して殺したのよ・・・・・・
大蛇 それはそれはかわいそうに。私にも見えるぞ、お前の憎悪が。黒くて深くて、恐ろしい・・・・・・俺の目は少々節穴だったようだ。お前、その女にもう一つ、大切なものを奪われていないか?
藤姫 そうだ・・・若介様!あなた・・・・・・若介様のことを知ってるの?
大蛇 ああ。よーく知ってるよ。姫様のちょっと前にこっちに落ちてきたからな。
藤姫 あぁ・・・・・・。あの女・・・・・・ただのはったりだと思ったのに・・・・・・まさか若介様にまで手をかけてたなんて・・・・・・許さない。絶対に許さない。
大蛇 お前が憎んで仕方のないあの女・・・・・・まだ池の淵にいるぞ。
藤姫 え?
大蛇 どうする?と言ってもお前一1人じゃ何にもできないか。ただ虚しく冷たくて暗い池の底で死んでいくだけ・・・・・・
藤姫 ・・・・・・そんなの、嫌だ。
大蛇 そうだろうな。そう言うと思ったよ。そこで、俺から提案だ。
藤姫 何?
大蛇 俺があの女を食い殺してやろう。それでお前の気も住むだろう?
藤姫 ・・・・・・本当に?
大蛇 でもただで・・・・・・とはいかないな。
藤姫 え?
大蛇 お前の体をよこせ。
藤姫 私の・・・・・・体?
大蛇 お前の体・・・・・・姫様の怨念と俺が一つになれば、俺は力を得る。その力であの憎むべき女を殺してやると言っているのだ。
藤姫 ・・・・・・
大蛇 さあ、どうする?
藤姫 わかったわ。どうせただ虚しく散るだけの命なら・・・・・・大蛇よ、私の体を喰らうがいい。そしてあの女を食い殺せ!
大蛇 仰せのままに。(大蛇が藤姫の体を喰らう)


(姫の死から数百年後の村)
青年 で、池にさえ近づかなければ安全だったのに、最近になって大蛇が村までやってきて人を襲うようになったと。
村人 はい。もう今月に入って5人も食われちまっていて・・・・・・このままじゃ村人がみんな喰われちまう。
青年 おそらく赤い月の日が近づいているからだろうね。
村人 赤い月?
青年 数年に一度見えるもので、赤い月の日が近づくと、妖怪たちの力が強くなるんだ。だから大蛇は池の外でも人を喰うようになった。
村人 どうにかできないものですか?
青年 ・・・・・・あの大蛇ごと退治してしまえばいいでしょう。
村人 そんなことできるのですか?
青年 大丈夫、なんとかしましょう。
村人 そんな軽い感じで退治できるものなんですか?怪物とはいえ、主を名乗ってるようなやつですよ?
青年 そんなのあいつが勝手に名乗ってるだけです。実際大したことないですよ。行きましょう。(池のほとりに移動する)

青年 大蛇、出てこい。いるんだろう。
大蛇 なんだ。うまそうな坊主かと思ったら・・・・・・お前人間じゃないではないか。
青年 僕のことはいいんだ。それよりも藤姫様を返せ。そうすればお前のことは見逃してやってもいいぞ。
大蛇 何を生意気な。姫は渡さぬ。この姫は私と一つになることを望んだんだ。その姫の望みをお前は砕く気なのか。
青年 姫の望み?良く言う。罪のない人間を殺すことが姫の望みだと言うのか?
大蛇 ああそうだ。そうでもしなければ姫のこの恨みは晴らせない。
(大蛇の体から姫の声が聞こえてくる)
藤姫 ごめんなさい・・・・・・ごめんなさい・・・・・・こんなつもりじゃなかったんです。関係のない人を殺すつもりはなかったんです・・・・・・どうか私もろともこの大蛇を切ってください。
大蛇 うるさい!お前は俺と運命を共にするのだ!逃れることはできない!
青年 姫様はそう言ってる。僕は遠慮なく、お前を切らせてもらう。(刀を構える)
大蛇 いいのか、姫ごと切ったら姫は俺と共に地獄行きだぞ。
藤姫 構いません。どうかこの大蛇を退治してください!
青年 うおぉぉぉぉ!(刀で大蛇を斬る)
大蛇 う、うわぁぁぁ。
(大蛇と藤姫が引き剥がされる)
大蛇 き、貴様・・・・・・一体、何をした・・・・・・
青年 この刀は肉体と魂を引き離すことができるんだよ。
大蛇 ちくしょう・・・・・・ちくしょう・・・・・・(大蛇の姿が消える)
藤姫 はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・
青年 大丈夫ですか、藤姫様。
藤姫 ごめんなさい・・・・・・ごめんなさい・・・・・・
青年 大丈夫です。藤姫様は悪くありません。むしろあなたは大蛇の中でもしっかりと意識を持っておいでだった。あなたはよく頑張りましたよ。
藤姫 う・・・・・・う、うぅぅ・・・・・・(涙を流す)
青年 もう疲れたでしょう。ゆっくりおやすみになってください。
藤姫 ありがとうございます・・・・・・ありがとうございます・・・・・・(藤姫の魂がゆっくりと消えていく)
村人 いや、たまげた。大蛇を退治するどころか、藤姫様の魂まで鎮めてしまわれるとは。
青年 だから言ったでしょう。大丈夫だって。
村人 ところで大蛇が言っていたあれ・・・・・・あなた様が人ではないって言うのは・・・・・・
青年 あぁ、あれは大蛇の戯言です。気にしないでください。
村人 はぁ・・・・・・
青年 それでは僕はこの辺で。
村人 あ、あの・・・・・・せめてお礼を・・・・・・
青年 あぁ、お礼なんていいんですよ。では。僕に会うってことは何か良くないことが起こってるってことですから。もう二度とお目にかからないことを願ってます。(村人の前から立ち去る)
村人 なんだか不思議な人だな。

(了)



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